妖精喰い
今は使われていない教室。
ホグワーツ城に数多くいる屋敷しもべ妖精たちも、部屋数の多さに手が周らないのか使われていない部屋まで掃除を行き届かせるのは多少無理があるらしく、窓枠や部屋の隅には薄っすらと埃が積もっていた。
机や椅子も今はなく、ただ棚などが置かれているだけで部屋は随分と広く感じられる。
消灯時間をとっくに過ぎた今時分ではその部屋は暗く静寂が満ちている筈なのだが、今日だけは何故か明かりが灯っていた。
きっちりとカーテンが閉められていたので、外からは見えなかったけれど。
その教室の真中に片手で支えるのが無理なほど分厚い書物を抱えた少女が一人、立っていた。
「ふ…ん………えぇと……」
思案するような声はまだあどけなさが残っている。普段はツンとした、明瞭な喋り方だったが、卓越した知識を披露する相手のいない今は少し声の感じがいつもより幼い。
ハーマイオニーの目の前の床には魔法陣を描いた布が広げられていた。それ程複雑ではない図形。
これから行う魔法の触媒に使うのだ。
「うん、これでいいのよね」
ハーマイオニーは確認するように声に出すとパタンと本を閉じて脇に置いた。
小妖精を捕獲する魔法。
鏡や砂糖菓子を使うなどやり方は幾つかあるが、図書室で見つけた本の中で見つけたのはオーソドックスな魔法陣を使うやり方だった。
妖精を呼び出す魔法はかなり上級生用の魔法だったが、興味を惹いてならなかった。
ピクシーではなくフェアリーの類。
魔法の世界を勉強してから大分経つけれど、それでも小さい頃絵本で読んだ妖精に抱いた憧れは消えるものではなかった。
必要な魔法陣は用意した。呪文も。
それから、消灯時間を過ぎてからの外出がバレないように扉に防音の魔法もかけた。
準備万端。
「Nympha reticulum...... el....Ardeo」
多少たどたどしかったものの、杖の振り方も発音も完璧だった。
完璧だった筈なのに。
「……あれ?」
魔法陣はぴくりともしない。
失敗だったかと多少のショックを受けた次の瞬間。
直径一メートルほどの狭い魔法陣の円の中から恐ろしい勢いで黒いものが溢れ出してきた。
「きゃあぁぁぁ!!?」
狭い魔法陣から、ビチビチ!とはちきれそうなほど大量の黒いものが飛び出し、ハーマイオニーに向かって伸びてきた。
あっという間にそれに四肢を絡め取られ、高く持ち上げられてしまう。
魔法陣から溢れてきたのは赤黒い触手の群れだった。ハーマイオニーを捕らえてなお、恐ろしい勢いで魔法陣から幾本も幾本も伸びてきている。枝分かれした大量のそれが部屋を数秒とかからずに埋め尽くしたところで、ぴたっと魔法陣からの排出は止まった。
「いやっ……な、何これ……きゃ、ぁ………ぬるぬる……気持ち悪いぃ…」
動揺と恐怖。そして、言葉通り触手の表面はたっぷりとした粘液でぬるついており、部屋の照明に表面がてらてら光っている。
ぼこぼこと無数に凹凸を造るイボ。数え切れないほど存在する触手の先端は花のように、と言えば聞こえはいいが、グバッと開いた様は食虫花のようだ。そして開いた中から新たに、色の違う細い触手が4、5本、ぐねぐねと揺れていた。
吐き気を催すほど気味が悪い。
明らかに妖精などではありえない。
太い触手がずるずると体を這い回る。制服は粘液でべったりと濡れていた。
しかし、予想外の自体への同様と異形への嫌悪感に数秒停止していた思考が次第に蘇り始めた。
『これは……悪魔の罠じゃない………だったら何?赤黒い触手……魔法陣……妖精を捕食する魔物…?でも、それがどうして……』
「あぁっ!?」
ギリッ…と触手に締め上げられ、思考が中断してしまう。
ハーマイオニーは焦った。
『いけないッ……このままじゃ、やられちゃう……!』
杖を握り締め、殆ど自由の利かない腕で杖を振った。呪文を叫ぶ。
小さな炎が触手の表面で弾けた。
普通、ただ純粋に焚き火などの火を起こす為に使う魔法だったが、限界まで高めてぶつけたのだ。普通の人間なら火傷は軽くないだろう。
「えっ!?」
しかし、触手の表面を覆う粘液のせいでどうやら効果は全くなかったようだ。
『私としたことがっ…』
判断を見誤ったことに戦慄を覚えながら再び別の呪文を口にしようとするが、鞭のように鋭くしなった触手に手首を打たれ、杖を弾き飛ばされてしまう。
それと同時に怒涛の如く押し寄せた触手にハーマイオニーの視界が覆われた。
「ひっ…ぃ……!」
太い触手が幾本も幾本も体を這いまわっている。
触手の上に仰向けに横たえられ、両脚を広げるように持ち上げられた。腰から下が浮く。
制服の上からならまだしも、ぬるぬるした触手が太股に絡んで気持ち悪い。
『いや……や、ぬるぬる……杖…どこっ……』
もう触手に埋もれてしまって杖などどこにも見つからない。絶望感に背中がゾッとした。混乱する。
「あぁっ…い、いやっ……何するの!」
触手の一本が、スカートが捲くれ上がって露出したショーツに絡みつく。生物の柔らかさがあるけれどしこったように硬い触手が、ショーツ越しに割れ目に押し付けられる。明らかに有機的な感触に更に恐怖を煽られた。
触手が割れ目に沿って上下に運動を始める。先端を押し付けながら擦られる。
「やめてっ!離して…やだっ……や、……そんなとこ触らないで……あ、ぅうっ…」
シュ、シュ、と小刻みに触手が動く。触手の粘液に塗れてショーツはもうぐちょぐちょだった。
ぴったりと張り付いたショーツが柔らかく盛り上がった丘の形を露わにしている。それどころか割れ目の在りかさえ良く分かった。
触手が動く度にぬちゅ、ずちゅ、と卑猥な音が立ち、張り付いたショーツが引っ張られるように一緒に割れ目を擦っていく。
「あっ………も、イヤぁ……助けて、誰かぁぁ!」
誰もが寝静まった真夜中。
部屋は防音の魔法で遮られている。
更に触手にぎっしりと周りを囲まれ、声は外には漏れない。
異変に気付いた教師か、生徒でも…誰か助けに来てくれるだろうか。
助けに来てくれるとしても……自分の所まで来るのに一体どのくらいかかるだろう。
ハーマイオニーには分からなかった。
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